おねしょは、尿をためる膀胱の大きさと、夜間睡眠中に作られる尿量とのバランスが悪く、
無意識のうちに尿が膀胱からあふれて下着や寝具等を濡らせてしまう状態をいうのです。
幼児期は、まだこのバランスが整っていないので、幼児期にみられるおねしょは、発達途上に
ある生理的な現象と思われ、心配ありません。もちろん、治療も必要ありません。

5〜6歳をすぎて、頻繁におねしょをする場合には、発達が思うようにいっていないと考えられ、
「夜尿症」として生活指導や治療が必要になってきます。
この「夜尿症」には色々な原因があり、その原因によって生活指導も工夫され、薬物療法も
異なってきます。


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腎臓は、尿(おしっこ)を作るところです。腎臓は、体にとって不要となった水分や電解質などを、
血液を介して糸球体といわれるところでまず濾過します。そのうえで、尿細管という部分で、再度必要な水分等を体にもどします(再吸収)。このとき、抗利尿ホルモンが少ないと尿細管での再吸収が不十分となって、うすい尿がどんどん作られてしまいます。夜尿症で夜間にうすいおしっこがたくさん出てしまうのは、このようなメカニズムによります。
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膀胱は、腎臓でつくられた尿(おしっこ)をためるところです。赤ちゃんは、排尿を抑制する力が
おさないために、少し尿がたまるとすぐおしっこをしてしまいます。幼児期になると、次第に抑制
機能がはたらくようになって、膀胱にためる尿量も多くなってきます。学童期になると、6〜7歳で150t、7〜8歳で200t、8歳を超えると250tはためられるようになるのが普通です(機能的膀胱容量)。
ところが、夜尿症のお子さんは、この機能的膀胱容量が年齢と比較して小さく、睡眠中に膀胱に尿が十分にためられず、もらしてしまうのです。このようなお子さんは、日中は頻尿(おしっこが近い)の傾向があります。
また、昼間はがまん尿が充分ためられるのに、寝てしまうと膀胱機能が不安定になって、少ない尿量でもおねしょをしてしまうこともあります。(解離型)
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腎臓は、腹腔内に左右二つあります。各々の腎臓から膀胱へは、腎臓でつくられた尿を膀胱に
送り込む尿管でつながっています。
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抗利尿ホルモンは、脳の下垂体後葉で分泌されます。抗利尿ホルモン(血漿中に含まれるバゾプレシン:P-AVP)を日中と夜間で比較したものが左側の図です。このホルモンは、日中は少なく、夜間睡眠中に多量に分泌されるという特徴があります。
右の図は、尿の量が日中と夜間とでどうなっているかをみたものです。日中は抗利尿ホルモンが少ないために尿量が多くなり、夜間は抗利尿ホルモンが多くなるため尿量が少ないことを示しています。






ところが夜尿症の場合は、夜間にたくさん分泌されるはずの抗利尿ホルモンが少ないため、
夜間の尿量がとても多くなってしまうのです。夜尿症の原因の一つとして、この抗利尿ホル
モンの夜間における分泌不足があるのです。
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夜尿(おねしょ)は、心理的なストレスを受けると悪くなることもあります。たとえば、親にきびしく怒られたとき翌朝にしてしまうとか、4月になってクラス編成替えや担任の交代、あるいは「いじめ」などによってストレスが生じると、明らかに悪くなります。このストレスは、抗利尿ホルモンの分泌に影響して、ぐっしょり型の夜尿となることが多いようです。
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夜尿(おねしょ)は、眠りが深すぎるから生じるとか、おしっこの夢をみてしてしまったとか、
眠りの深さや夢を見る睡眠(レム睡眠)との関係が影響しているといわれてきました。
しかし、実際には、軽い睡眠でも、深い睡眠でも、あるいはレム睡眠でも夜尿をしており、
睡眠の深さや夢の問題は、それほど関係ないということがわかってきました。
一方、夜中に起こして排尿させると、睡眠リズムが乱れて抗利尿ホルモンの分泌が減って、
ぐっしょり型の夜尿が固定してしまうこともわかってきました。
昔からの早寝・早起きといった健康な睡眠リズムが、夜尿から自立していくために
最もよいと思いますが、塾等の関係もあって思うようにはいかないのが実情です。
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図に示されるように、夜尿(おねしょ)は、夜間に作られる尿量と、それをためる膀胱の大きさとのバランスがくずれると生じることになります。
筆者によるこれまでの排尿メカニズムの発達研究や夜尿症に対する臨床研究の結果、幼児期にみられる夜尿(おねしょ)は、まだこのバランスが発達途上にあるので心配ありません。
一方、学童期にみられる夜尿は、主として脳の下垂体機能など神経・内分泌(ホルモン)系統に
おける発達の遅熟性によって尿量が調節できなかったり、膀胱容量が小さすぎてためられなかったり、冷え症状やストレスなどによってそのバランスが不安定になって生じると考えられます。
このように、夜尿症の原因にはさまざまなことがあることを理解して欲しいと思います。
このため夜尿症は一つの原因で生じる病気ではなく、いくつかの原因が複合的に関わっている「症候群」といわれています。

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