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症例1(9歳7カ月男児:多尿型) 1) 夜尿の状態像 幼児期から引き続く一次性の夜尿症で、明け方型だが毎晩ぐっしょりと夜尿をし、夏季には多少よくなり、週に1〜2回は夜尿なしの日があるという。初診時は冬であったため毎晩の遺尿を認めていた。 水分の摂取量は兄弟と比較して多いという。身体発育もよく、昼間遺尿や頻尿傾向はなく、その他特記 すべきことは認めない。 2) 検査所見 夜間の尿量は、270〜340cc、夜尿時の起床時尿浸透圧は、平均756mOsm/lと多少希釈されていた。 帰宅後の排尿抑制量(機能的膀胱容量)をみると、220〜360ccと比較的多かった。その他の諸検査で 異常所見は認めなかった。 3) 夜尿症の類型と重症度 夜尿記録並びに尿浸透圧の結果から類型診断としては多尿型、重症度としては中等症と 診断された。 4)治療経過 初診時に、まず本児と母親に約1時間の生活指導(オリエンテーション)を実施。多尿型と診断されたため、三環系抗うつ剤を第一選択として、アナフラニール、トフラニール、トリプタノールを各々1週間、 隔週毎に10mgを就眠前に内服。この内、効果が多少みられたトリプタノールを25mgに増量し、内服 期間を2週間に変更して経過をみることとした。 その結果、夜尿頻度は内服期間中に急速に改善をみて3/14に減少したが、休薬期間の夜尿頻度は まだ13/14と多くぐっしょり失敗し、しかも朝の尿量が130ccと多い。一晩の尿量が300ccを超えている ことが予測されるため、水分摂取リズムの見直し指導を行いながら、トリプタノールによる治療を続行。 次第に内服期間の夜尿は消失、休薬期間中の夜尿も減少。 5)治癒判断 治療期間中の夜尿が消失し、休薬期間中の夜尿が週1〜2回となった段階で、薬物療法を中止、 2カ月の経過観察の後、治癒と判断して治療を終結した。 |
症例2 (8歳7カ月女児、混合型) 1) 夜尿の状態像 幼児期から引き続く一次性の夜尿症で、ぐっしょりと寝入りばなと明け方の2回夜尿をし、夏季も冬季も 季節に関係なく毎晩遺尿をみている。水分の摂取量は多めとのこと。 幼少時から頻尿傾向を認め、昼間遺尿はなく、その他特記すべきことは認めない。 2) 検査所見 夜間の尿量は、240〜360cc、夜間の尿浸透圧は、平均567mOsm/lと低浸透圧尿であった。 帰宅後の排尿抑制量(機能的膀胱容量)をみると、80〜110ccと極端に少なかった。 その他の諸検査で異常所見は認めなかった。 3) 夜尿症の類型と重症度 受診後の夜尿記録註並びに各種の検査結果から類型診断としては混合型、重症度としては重症と 診断された。 4)治療経過 初診時に、まず本児と母親にオリエンテーションを実施。混合型と診断されたため、尿失禁治療薬を 第一選択として、バップフォー10rを朝食後並びに就眠前に2週間内服、その後の1週間は休薬期間と いう治療スケジュールとした。その結果、夜尿頻度は相変わらずであったが、排尿抑制訓練による 機能的膀胱容量は210ccまでに改善してきた。 この段階にて、三環系抗うつ剤の併用内服を試み、トリプタノール10mgを就眠前に追加した。 その結果、寝入りばなの夜尿は消失したが毎晩の遺尿状態は続き、夜間の尿量も推定で280cc前後と 相変わらず多い。幸いに排尿抑制訓練では、最大機能的膀胱容量250ccに増大し、日中の頻尿傾向を 認めなくなった。 この段階で、内服薬はすべて中止し、治療薬はデスモプレシン点鼻療法に変更することとし、点鼻オリエンテーションを受講してもらった。点鼻療法は、酢酸デスモプレシン10μgを就眠前に2週間点鼻し、次の 1週間は休薬という治療スケジュールで行った。その結果、点鼻期間中の夜尿は全く消失し、しかし休薬期間の夜尿は相変わらず明け方1回みられていた。夜尿があった際の一晩の尿量は推定260cc前後と まだ多いため、水分摂取リズムについての指導を強化。その後、次第に休薬期間の夜尿がない日も みられ、点鼻量を5μg に減量した。 5)治療判断 点鼻量を減量しても治療期間中の夜尿は消失し、休薬期間中の夜尿が週1〜2回となった段階で、 薬物療法を中止、2カ月の経過観察の後、治癒と判断して治療を終結した。 |