夜尿症の治療に当たっては、日常の生活指導が極めて重要である。生活指導を抜きにしての
薬物療法は、その効果を半減させる。
まず「おこさず・あせらず・しからず」の3原則のもとに、水分摂取リズムの調整、排尿抑制訓練や
排尿中断訓練、冷え症状がみられる場合には、それへの対策も必要となる。
以下に主要な生活指導について述べる。

1)中途覚醒を強制しない
夜間に強制覚醒させてトイレで排尿させると、"トイレおねしょ"としてみかけ上の夜尿は消失するが、
実際には夜間の多量遺尿を固定してしまうことになる。これは、強制覚醒によって睡眠リズムが乱れ、
夜間睡眠中の抗利尿ホルモンの分泌が抑制され、多量遺尿状態が悪化するためである。
また、中途覚醒を強制し排尿させることにより、睡眠中の機能的膀胱容量も不安定となり、夜尿の
自立へブレーキをかけることになる。

2)水分摂取リズムの調整
夜尿症に対しては、夜間の水分摂取の制限がよく行われている。筆者は、単に夜間に制限するのみ
ならず、意識的に摂取水分の日内リズムを形成することが大切であると考えている。
水分摂取量の配分としては、朝から午前中には、飲みたくなくてもたっぷりと摂取させ、午後から多少
控え目にし、夕方からきびしく制限することにしている。例えば夕食に汁物や果物の摂取はやめ、朝に
与えるなど、リズム形成に留意した指導がポイントとなる。

3)冷え症状への対応
冷え症状は夜尿を悪化させやすい。従って、冷え症状、とくに手足が冷たい、しもやけが出来やすい、
足腰がすごく冷えるといった症状、あるいは秋から冬にかけて夜尿が悪化しやすいといった夜尿症に
対しては、就眠前にゆっくり入浴させ、寝具も少し保温するように指導している。浴剤を用いる場合には、
炭酸浴剤が毛細血管を拡張させ冷え症状を改善するので、夜尿の改善にも効果的である。

4)排尿抑制訓練
膀胱型の夜尿症には、機能的膀胱容量を拡大させるための排尿抑制訓練が効果的である。帰宅後、尿意を感じた際に排尿をぎりぎりまで抑制させる訓練である。目安としては、6〜7歳で 150cc
以上、8〜9歳で 200cc以上、10歳以上で 250cc以上溜められるようにする。
400cc以上溜めるといった極端な抑制訓練を行わない限り、尿路感染症になることはない。

5)排尿中断訓練・肛門収縮訓練
昼間遺尿を伴い、しかも潜在性二分脊椎が認められる場合には、排尿中断訓練や肛門収縮訓練が
必要となることもある。
排尿中断訓練は、排尿中に一旦排尿を中断させ、10数えてまた排尿する訓練であり、毎回排尿時に
行うように指導している。
一方、肛門収縮訓練は、肛門をギューと収縮させる訓練である。10回繰り返すように指導している。
これらの訓練は、尿道・膀胱括約筋の強化を意図したものである。

6) 宿泊行事への配慮
夜尿があるために宿泊行事に参加できない、あるいは参加させないといったことは、夜尿症児に対する
差別的な処遇となる。積極的に宿泊行事に参加するように励ますことが大切である。
担任の先生には、夜尿を不安がっている子どもの気持ちを受けとめ、宿泊行事で失敗させない工夫に
ついて助言することが大切である。
例えば、他児に知られないように、夜間にそっと起こして貰ったり、万一失敗していたら、他児が起きる
前に着替えさせる、一晩に何回も夜尿がある場合には、他児が寝静まってから保健室に移すといったような配慮も必要となる。



UP